クリティカルスイムスピード(CSS)

データに基づくスイミングトレーニングの基礎

クリティカルスイムスピード(CSS)とは何ですか?

クリティカルスイムスピード(CSS)は、疲労することなく維持できる理論上の最大遊泳速度です。有酸素閾値ペースを表し、通常は血中乳酸4 mmol/Lに相当し、約30分間持続可能です。CSSは400mと200mのタイムトライアルテストを使用して計算され、個別化されたトレーニングゾーンを決定します。

クリティカルスイムスピード(CSS)は、疲労することなく継続的に維持できる理論上の最大遊泳速度を表します。これは水中での有酸素閾値であり、乳酸の生成と除去が等しくなる強度です。

🎯 生理学的意義

CSSは以下と密接に対応しています:

  • 乳酸閾値2(LT2) - 第二換気閾値
  • 最大乳酸安定状態(MLSS) - 持続可能な最高乳酸レベル
  • 機能的閾値ペース(FTP) - サイクリングのFTPに相当する水泳版
  • 血中乳酸約4 mmol/L - OBLAの伝統的なマーカー

CSSが重要な理由

CSSは、すべての高度なトレーニング負荷分析を解き放つ基本的指標です:

  • トレーニングゾーン: あなたの生理学に基づいて強度ゾーンをカスタマイズ
  • sTSS計算: トレーニングストレススコアの正確な定量化を可能にする
  • CTL/ATL/TSB: パフォーマンス管理チャート指標に必要
  • 進捗の追跡: 有酸素フィットネスの改善の客観的測定
⚠️ 重要な依存関係: 有効なCSSテストがないと、高度なトレーニング負荷指標(sTSS、CTL、ATL、TSB)を計算できません。不正確なCSSは、すべての後続のトレーニング分析を損ないます。

CSSテストプロトコル

📋 標準プロトコル

  1. ウォームアップ

    300-800mの軽い遊泳、ドリル、徐々に加速して最大努力に備えます。

  2. 400mタイムトライアル

    壁からのプッシュオフで持続的な最大努力(飛び込みなし)。秒単位で時間を記録。目標:持続可能な最速400m。

  3. 完全な回復

    5-10分の軽い遊泳または完全休息。これは正確な結果のために重要です。

  4. 200mタイムトライアル

    壁からのプッシュオフで最大努力。時間を正確に記録。これは400mより100mあたり速くなるはずです。

⚠️ よくある間違い

不十分な回復

問題: 疲労が200mタイムを人為的に遅くする

結果: 計算されたCSSが実際より速くなり、過剰トレーニングゾーンにつながる

解決策: 心拍数が120 bpm未満に下がるまで、または呼吸が完全に回復するまで休む

400mの不適切なペース配分

問題: 速すぎるスタートは劇的な減速を引き起こす

結果: 400mタイムが真の持続可能なペースを反映しない

解決策: イーブンペースまたはネガティブスプリット(後半200m ≤ 前半200m)を目指す

飛び込みスタートの使用

問題: 約0.5-1.5秒の利点が加わり、計算が偏る

解決策: 常に壁からのプッシュオフを使用

🔄 再評価の頻度

フィットネスが向上するにつれてトレーニングゾーンを更新するために、6-8週間ごとにCSSを再評価してください。トレーニングに適応するにつれて、ゾーンは徐々に速くなるはずです。

CSS計算式

計算式

CSS (m/s) = (D₂ - D₁) / (T₂ - T₁)

ここで:

  • D₁ = 200メートル
  • D₂ = 400メートル
  • T₁ = 200mのタイム(秒単位)
  • T₂ = 400mのタイム(秒単位)

100mあたりのペースに簡略化

CSSペース/100m(秒) = (T₄₀₀ - T₂₀₀) / 2

計算例

テスト結果:

  • 400mタイム:6:08(368秒)
  • 200mタイム:2:30(150秒)

ステップ1:CSSをm/sで計算

CSS = (400 - 200) / (368 - 150)
CSS = 200 / 218
CSS = 0.917 m/s

ステップ2:100mあたりのペースに変換

ペース = 100 / 0.917
ペース = 109秒
ペース = 1:49 / 100m

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クリティカルスイムスピードと個別化されたトレーニングゾーンを即座に計算します

形式:分:秒(例:6:08)
形式:分:秒(例:2:30)

代替方法(簡略化):

ペース = (368 - 150) / 2
ペース = 218 / 2
ペース = 109秒 = 1:49 / 100m

CSSに基づくトレーニングゾーン

注意: 水泳では、ペースは距離あたりの時間として測定されます。したがって、パーセンテージが高い = ペースが遅いパーセンテージが低い = ペースが速いです。これはサイクリング/ランニングとは逆で、高い% = より激しい努力となります。

ゾーン 名称 CSSペースの% CSS 1:40/100mの例 RPE 生理学的目的
1 リカバリー >108% >1:48/100m 2-3/10 アクティブリカバリー、技術向上、ウォームアップ/クールダウン
2 有酸素ベース 104-108% 1:44-1:48/100m 4-5/10 有酸素能力の構築、ミトコンドリア密度、脂肪酸化
3 テンポ/スイートスポット 99-103% 1:39-1:43/100m 6-7/10 レースペース適応、神経筋効率
4 閾値(CSS) 96-100% 1:36-1:40/100m 7-8/10 乳酸閾値の改善、持続可能な高強度
5 VO₂max/無酸素性 <96% <1:36/100m 9-10/10 VO₂max開発、パワー、乳酸耐性

🎯 ゾーントレーニングの利点

CSSベースのゾーンを使用すると、主観的な「感覚」トレーニングが客観的で再現可能なワークアウトに変わります。各ゾーンは特定の生理学的適応を対象としています:

  • ゾーン2: 有酸素エンジンの構築(週間ボリュームの60-70%)
  • ゾーン3: レースペースでの効率向上(ボリュームの15-20%)
  • ゾーン4: 乳酸閾値の向上(ボリュームの10-15%)
  • ゾーン5: 最大スピードとパワーの開発(ボリュームの5-10%)

レベル別の典型的なCSS値

🥇 エリート距離スイマー

1.5-1.8 m/s
0:56-1:07 / 100m

100m最大速度の80-85%を表します。長年の構造化トレーニングを持つ国内/国際レベルのアスリート。

🏊 競技年齢グループ

1.2-1.5 m/s
1:07-1:23 / 100m

高校代表、大学スイマー、競技マスターズ。週5-6日の定期的な構造化トレーニング。

🏃 トライアスリートとフィットネススイマー

0.9-1.2 m/s
1:23-1:51 / 100m

週3-4日の定期的なトレーニング。確実な技術。セッションあたり2000-4000m完泳。

🌊 発展途上のスイマー

<0.9 m/s
>1:51 / 100m

有酸素ベースと技術を構築中。一貫したトレーニング1-2年未満。

科学的検証

Wakayoshi et al. (1992-1993) - 基礎研究

大阪大学のWakayoshi Kohjiによる画期的な研究は、CSSが実験室での乳酸テストに代わる有効で実用的な代替手段であることを確立しました:

  • 無酸素閾値でのVO₂との強い相関(r = 0.818)
  • OBLA速度との優れた相関(r = 0.949)
  • 400mパフォーマンスを予測(r = 0.864)
  • 血中乳酸4 mmol/Lに対応 - 最大乳酸安定状態
  • 距離と時間の間の線形関係(r² > 0.998)

主要論文:

  1. Wakayoshi K, et al. (1992). "Determination and validity of critical velocity as an index of swimming performance in the competitive swimmer." European Journal of Applied Physiology, 64(2), 153-157.
  2. Wakayoshi K, et al. (1992). "A simple method for determining critical speed as swimming fatigue threshold in competitive swimming." International Journal of Sports Medicine, 13(5), 367-371.
  3. Wakayoshi K, et al. (1993). "Does critical swimming velocity represent exercise intensity at maximal lactate steady state?" European Journal of Applied Physiology, 66(1), 90-95.

🔬 CSSが機能する理由

CSSは激しい運動と厳しい運動の領域の間の境界を表します。CSS以下では、乳酸の生成と除去がバランスを保ち、長時間泳ぐことができます。CSS以上では、乳酸が徐々に蓄積し、20-40分で疲労困憊に至ります。

これによりCSSは次のような用途に最適な強度となります:

  • 800m-1500mイベントの持続可能なレースペースの設定
  • 閾値インターバルトレーニングの処方
  • 有酸素フィットネスの改善のモニタリング
  • トレーニング負荷と回復ニーズの計算

実用的な応用

1️⃣ トレーニング負荷指標のロック解除

CSSはsTSSの強度係数計算の分母です。これがないと、トレーニングストレスを定量化したり、フィットネス/疲労トレンドを追跡したりできません。

2️⃣ トレーニングゾーンのカスタマイズ

一般的なペーステーブルは個人の生理学を考慮していません。CSSベースのゾーンは、各スイマーが最適な強度でトレーニングすることを保証します。

3️⃣ フィットネスの進歩のモニタリング

6-8週間ごとに再評価してください。CSS(ペースが速く)の改善は、有酸素適応の成功を示します。CSSの停滞は、トレーニングの調整が必要であることを示唆しています。

4️⃣ レースパフォーマンスの予測

CSSペースは、30分間の持続可能なレースペースを近似します。800m、1500m、およびオープンウォーターイベントの現実的な目標を設定するために使用してください。

5️⃣ 閾値ワークアウトの設計

クラシックなCSSセット:8×100 @ CSSペース(15秒休息)、5×200 @ 101% CSS(20秒休息)、3×400 @ 103% CSS(30秒休息)。乳酸除去能力を構築。

6️⃣ テーパー戦略の最適化

テーパー前後のCSSを追跡します。成功したテーパーは、疲労を軽減しながらCSSを維持またはわずかに改善します(TSB増加)。

CSS知識を適用する

クリティカルスイムスピードを理解したので、トレーニングを最適化するために次のステップを踏んでください: